





古代文字「濱」
この「濱」という文字、実は私にとって、一番字形が難しい文字。
おそらく今までたくさん書いたにもかかわらず、一度も満足に書けない文字の一つでした。
というのは、字源がわからないことも多かったからです。
「濱」(はま・みぎわ・そう)は、形声字。まだわかっていないことが多い文字です。
いつもの白川先生の『字統』によれば、正字は「瀕」または「賓」。声符も「瀕」または「賓」とありましたが、「瀕」に近い用例の説明のみ短く掲載されていました。
そこで、白川先生が正字と書いておられるので「瀕」の頁をまず調べてみると、
「水崖(すいがい)なり、人の近づく所なり、水と接した所なり」とあり、水際(みぎわ)、岸辺をあらわす文字であったとわかります。
古代、水崖はしばしば聖所とされていました。
「瀕」のもとの文字は「頻」で、「頁」が儀礼の際の礼儀正しい姿を示す文字であるため、「瀕」も江浜における何らかの儀礼を示す字、おそらく水浜に人を弔うような儀礼があったであろうと考えられているようです。
さらに、「賓」も調べてみると、白川先生によれば「賓」は廟中に犠牲を供えて神を迎える意があり、「賓」とは客神をいうそうです。
「賓」はいくつもの字形がありますが、甲骨文字の「賓」の字形は、「宀」(べん)と「万」とからなるシンプルな文字で、これは祖霊を迎えることをいうのだそうです。甲骨文字の「賓」の字形にさらに「貝」を加えた形が「賓」。
このように、「瀕」と「賓」は用例も多様でそれぞれ異なり、明快な説明ができる文字ではありません。
なので、今の所、私は個人的に、共通する意味として、聖所における神や祖霊を迎えたり、御霊を送ったりするような何らかの儀礼にかかわる文字だと理解し、字形は、「賓」の甲骨文字とサンズイの甲骨文字を合わせて書いています。
何だか、分かりにくいし、伝わりにく字源の説明になりましたが、
先日の帰省の折りに訪れた伊勢二見浦で、この古代文字「濱」の意味がとても心に響いてきました。
本当は、別のところに立ち寄る予定でしたが、実家の用事で大幅に予定変更。もう帰ろうとしていた時、ふと二見という地名が心に浮かび、思いがけず訪れた伊勢二見浦。古来よりの沐浴禊斎の霊地と言われている「禊の浜」で、本来はお伊勢参りの始まりの地です。
以下の写真は、2024年2月5日の午前11時ごろの撮影。
潮の満ち引き、時間や季節によっても見え方や景色は変わると思いますが、先日は強風注意報が出ていました。
海からの強く冷たい風に晒されているだけで心身が浄化されていくかのようでした。
古代、この「濱」という文字がどんなふうに象どられたのかはわかりませんが、御霊に触れる清浄で神聖な場をあらわすということを実感しました。
海風を浴びながら「濱」を歩いてみて、霊地と言われる所以や字源の意味が今までよりわかったような気がして、古代文字「濱」を書きながらありがたい気持ちになりました。
いつか、作品を見てくれた人の心を清められるような文字を書きたいです。
「禊の浜」と言われる「伊勢二見浦」(いせふたみうら)
波打ち際まで歩いて行けます。
海に向かって浜辺の右側を見ると、「二見興玉神社」と「天の岩門」(鳥居に見立てられた「夫婦岩」のこと)が見えます。
通称「夫婦岩」と呼ばれている「天の岩門」
「天の岩門」の向こうに、猿田彦大神が出現され「常世の神」が最初に降り立つ聖岩といわれる「興玉神石」が祀られています。(この神石については、次のBlogで)この数十年の間にかなり海面が上昇し、今は「興玉神石」は見えなくなったのですが、昔は「天の岩門」の向こう800mくらいのところに「興玉神石」が見えていたそうです。今は、4月頃の大潮の時にうっすらと無垢塩草が岩礁に繁茂した興玉神石を拝せるときがあるということです。
二見浦の地は古来よりの沐浴禊斎の霊地で、神宮の古例にも二見浦の一部にある祓島では御贄(おんべ・神様に供する食物のこと)の神事があり、禊祓が行われ、打越浜から夫婦岩(立石﨑)に至る浜は、清渚と呼ばれて禊斎修業の霊地とされてきました。
二見興玉神社では、上の写真のような「無垢鹽草」(むくしおくさ)をおゆずりいただけます。
「当社にお参りいただく事を浜参宮と申しますが、拝殿内にて御祈祷をされないときは、御霊草である無垢塩草を受けられ、身につけられる(お清めのお守りとして、ふところ等にお持ちいただく)、又は、自宅では湯水に和して禊斎をするのが習わしです。」とのこと。
また、「二見興玉神社」では、方災・土地の御清め砂も授けていただけます。
昭和の頃の二見浦は、三重県内はもちろん関西方面の小中高校などの修学旅行の定番観光地としていつも賑わっていました。
地元のタクシーの運転手さんによると、その後東京ディズニーランドや大阪のユニバーサルスタジオなどテーマパークが修学旅行の定番となり、この地域は一気に静かになったとのこと。実際、近隣の旅館やお土産物屋さんなど多くが閉店してしまっています。
とはいえ、二見興玉神社はやっぱりパワースポットと言われるだけあって、平日でも多くの参拝客でいっぱいでした。
参考
二見興玉神社公式サイトhttps://futamiokitamajinja.or.jp/